SFのススメ【第一回】小川一水『第六大陸』
・SFのススメ【第一回】 小川一水『第六大陸』(ハヤカワ文庫JA、2003年)
「未踏大陸……南極のような、6番目の大陸か」
「第六大陸。ええ、第六大陸。いい響きです」
(小川一水『第六大陸1』)
宇宙SFですよ! 宇宙!
ということで、記念すべき一回目は、小川一水さんの『第六大陸』。
文庫版のあとがきによれば、
月面を目的に行く時代と、月面を足がかりにする時代の間を埋める、
月面で何かをする時代を描いたSF小説ということになります。
そもそも、SF小説の分類の話を始めると話しは長くなるのですが、
この作品の個人的な分類では、
「宇宙に行きたいと思った人だけが到達できる、特殊な空間としての宇宙」で、
「宇宙でなければできないこと」を
「人類が主体」となっておこなう作品
といった塩梅です。
田中芳樹『銀河英雄伝説』や、ジョージ・ルーカス『スターウォーズ』と言ったように、
宇宙に行くのが当たり前、と言った世界間とは異なりますし、
宇宙開発を扱うので、宇宙でしかできない話題です。
そのうち、この分類の話題についてはもっと詳しい資料を用意して、
読みたい本にたどり着きやすくしたいと思いますが、
先ずは、この作品の魅力について。
(マンガ版の表紙は天才少女の妙ちゃん)
妙ちゃん可愛い。 ……以上。
とはいえこれだけ書くとなんのこっちゃ、となりかねないので、
もう少し詳しく書くと、妙ちゃんと言うのはこの作品の中心人物の一人ということになります。
天才少女の妙と出会った普通の青年が、
天才性に翻弄されながら宇宙を目指し、
少女の人間的な成長を支えていく、
そういう物語と言うのが一般的かもしれません。
どちらかと言うと群像劇的描写方法が取られている上、
主人公がよく読むと結構なハイスペックである点等を鑑みるとライトノベル的な巻き込まれ型や、
シンデレラストーリー型でもないことがわかるのですが、
そこは作者の腕の見せ所なのか、
普通の青年が天才少女に振り回される物語に仕立てられています。
ですので、もしかしたらかわいい女の子が登場すると、
拒絶反応を起こしてしまうようなガチムチ好きの方には合わないかもしれません。
かっこいい、またはかわいいおっさんはたくさん登場しますが。
おっさん好きで、夢をあきらめないおっさんの物語、という側面に惹かれる方にもお勧めかと。
苦労して宇宙に行く、宇宙開発要素が多分に含まれている為、
幸村誠『プラネテス』(講談社、1999年)的な宇宙との距離感と、
『プロジェクトX~挑戦者たち~』(NHK、2000-2005年)的な巨大プロジェクト感の好きな方におすすめです。
また葉山透『9S』(電撃文庫、2003年-)の様な天才少女に論破される感覚が好きな方、
天才過ぎて孤独な彼女たちを癒したいとか思ってしまうお兄様(お姉様)方には、大・好・物だと思いますよ。
あとは、アンディー・ウィアー『火星の人』(ハヤカワ文庫、2014年)は生々しくもファンタジックな宇宙生活と言う点では、
SFな宇宙開発を題材にしている点では読みたい内容かもしれません。
続きは ネタバレ
この作品のキモは、地球外生命体が出てくる点でしょう。
全編のおおよそ8割にわたっては真面目な宇宙開発が行われていますが、
最終的には地球外生命体の発見と、そこからのファーストコンタクトへの希望を残す形でのエンディングです。
ファーストコンタクトへの流れも丁寧ですが、
地球外生命体に対して極めて強い拒絶反応がある方もいらっしゃるかも知れません。
その点はご注意を。
また、月面で何かをする時代の到達には、地球外生命体の存在が必要不可欠なのかと寂しい思いもあります。
対話が成立していない地球外生命体とのファーストコンタクトという意味では、
J・P・ホーガン『星を継ぐもの』(創元SF文庫、1980)などと同系統の部分もある、と思いますよ。
(月が舞台なのも共通点)
次回は 海野十三 を取り上げます。